「有名なインフルエンサーを呼んで、観光地を回ってもらおう」多くの自治体やホテルが取り組む施策(ファムトリップ)ですが、失敗事例が山のようにあります。
「綺麗な写真をアップして終わり」「地元の人も知らないマニアックな場所すぎて誰も行けない」「投稿から実際の来訪(予約)に繋がらない」
旅行系ギフティング(招致)の難しさは、「移動」と「宿泊」という高いハードルを越えさせなければならない点にあります。「いいな」と思わせるだけでなく、「来週の休みに行こう」と行動させるための戦略を解説します。

1. ターゲット選び:誰の「憧れ」になりたいか?
「旅行好き」と一括りにするのは危険です。彼らの発信スタイルは細分化されています。
1. ラグジュアリー系:高級ホテル、プール、アフタヌーンティー。「映え」最優先。富裕層向け。
2. 節約・コスパ系:LCC活用、ドミトリー、お得な切符。「1万円でこんなに楽しめる」という情報価値がメイン。若者向け。
3. ファミリー・子連れ系:キッズスペース、オムツ替え情報、子供が騒いでも大丈夫か。ママ層向け。
4. ソロ活・女子旅系:おしゃれなカフェ、御朱印巡り、一人でも安全か。
自治体の観光課やホテルの担当者は、「自社のコンテンツがどの層に刺さるか」を冷静に分析し、そのジャンルのトップランナーを呼ぶ必要があります。チグハグな人選(例:高級旅館にバックパッカーを呼ぶ)は事故の元です。
2. 行程表(旅のしおり)の設計
「自由に回ってください」はNGです。土地勘のないインフルエンサーに丸投げすると、移動だけで疲弊し、魅力的なコンテンツが撮れません。
「絶対に撮れ高があるスポット」を繋いだ、完璧なスケジュールを組んで渡しましょう。
成功する行程のコツ
- 余白を作る:分刻みのスケジュールは厳禁。カフェで休憩したり、偶然見つけた店に入る「余白」が、その人らしい投稿を生みます。
- 時間帯を指定する:「この神社の夕日が一番綺麗に見えるのは17時です」といった、地元民しか知らない「ベストショット情報」を提供します。
- 雨天プラン:天気が悪いと詰みます。雨でも楽しめる美術館や体験工房などのBプランを必ず用意しましょう。
3. 費用対効果の考え方
招致にはお金がかかります。
- 交通費+宿泊費(実費):マストです。ここをケチり「自腹で来てください」と言うのは、よほどの有名リゾートでない限り失礼にあたります。
- 謝礼(ギャラ):拘束時間が長く(丸1日〜数日)、撮影・編集の手間も膨大なので、通常のギフティングよりも高額(数万〜数十万円)になるのが一般的です。
予算が厳しい場合は、「閑散期(平日)」に限定して招待します。ホテル側としては稼働の低い部屋を提供すれば原価は低く抑えられ、インフルエンサー側も混雑していない環境で撮影できるメリットがあります。

4. 投稿後の「受け皿」を用意する
投稿を見て「行きたい!」と思った人が、スムーズに予約・計画できる導線が必要です。
- Googleマップリスト:訪れた場所をまとめたGoogleマップのリスト(URL)を作成し、ストーリーズで配布してもらう。これさえあれば、ユーザーはそのままナビとして使えます。
- LP・特集ページ:自治体サイト内に「〇〇さんが巡るモデルコース」という特集ページを作り、インフルエンサーの投稿からリンクさせます。
5. よくある質問
コスパは良いですが、投稿内容が似通ってしまうデメリットがあります。また、集団行動が苦手なインフルエンサーも多いです。可能であれば、時期をずらして個別に呼ぶか、少人数(2〜3人)の仲良しグループを招待する方が、自然な「女子旅」の雰囲気が出ます。
インフルエンサーが食事をする際の代金は、原則として招致側(自治体・ホテル)が負担します。店舗側には事前に「取材として伺います」と連絡し、領収書を切ってもらうか、後日請求払いにしてもらいます。インフルエンサーに財布を出させてはいけません。
観光PRの場合、誤った情報(神社のマナー違反や、立ち入り禁止区域など)が発信されると炎上リスクがあるため、事実確認(ファクトチェック)は必須です。「感想(主観)は修正しませんが、地名やルール等の事実確認だけさせてください」と伝えれば、快く応じてくれます。
まとめ
- 旅行系インフルエンサーは4つのジャンルに分類される
- 「自由に回ってください」ではなく、完璧な行程表を用意する
- 交通費・宿泊費・謝礼を適切に負担する
- 平日招待で費用を抑える工夫
- 投稿後の予約導線を準備する
観光ギフティングの本質は、「風景」を見せることではありません。その場所で過ごす「時間」と「感情」を見せることです。
「ここに行けば、こんな素敵な時間が過ごせるかもしれない」そんな旅への憧れを喚起できるのは、ガイドブックの無機質な情報ではなく、インフルエンサーの体温のある発信だけです。
あなたの街の知られざる魅力を、彼らのレンズを通して世界に届けてください。
